【読書記録】蜜蜂と遠雷|ただひたすらに、音楽のうつくしさに触れる

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30代前半で正社員を辞めた独身オタク。
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こんにちは、きなです。

タイトルだけ知っている本を読んでみようシリーズ、今回は恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」です。

タイトルの響きがきれいでなんとなく記憶に残ってましたが、本屋大賞受賞されてたんですね。道理で聞いたことがあるわけだ。開いてみてから、ああピアノコンクールの話なんだ、と知るレベルのミリしら状態でスタートです。

※結末などのネタバレを多数含みます!未読の方注意!※


様々な背景をもつピアニスト四人を中心とした、ある国際ピアノコンクールのお話。

純朴な天才とそれに翻弄される世界、好きなやつです。

いや〜〜〜良かった。うつくしかった。ひたすらに。

読書の良いところは知らない世界を知れることだというけど、特にそれを感じました。クラシック音楽の果てしなさと美しさ。それを愛する人にとって、それを通じてどれだけ世界が輝いて見えるかということ。

私は昔少しだけピアノを習ってはいたけど、クラシック音楽は縁遠い世界。長いしたくさんありすぎるし難しそう、というイメージ。でもそんなに難しく捉えずに、ただ音の響きの美しさに浸るために触れてもいいのかな~と思いました。


物語の構成としては、大事件や大どんでん返しが起こることも無く(塵の演奏は毎回良い意味で聴衆にとって大事件だった気もするけど)、

主人公四人のうち「天才」の三人は本選まで進み良い成績を収め、俗に言う「凡人枠」の一人も特別な賞をもらえて未来に希望が見える、という順当にハッピーエンドと感じる結末。

ただコンクールの話でありながらも、重要なのは順位でなく「何を得られたか」なんだなと、学校の先生がよく言うようなありふれた言い方だけど本当にそう感じられました。

表面的にド派手な事件は起こらないけど、それぞれの心の中ではそれ以上に大きなドラマが起こっていて、それが各々の音楽に反映されていって、あとはひたすらにうつくしい音楽を楽しめるという贅沢な物語だったなと。

コンクールの話なのに最終結果発表を直接描写しないで、最後に一覧だけ出して締めくくるのかっこよすぎる…。

四人の中で今回一番成長・覚醒していった亜夜の本選の演奏自体も描写されないのがすごい。最後の演奏がどんなものだったのか、結果発表で皆がどんな風に喜んだのか、全て余白にして読者の想像に任せるやつ。

かっこいい〜〜〜 読了後しばらく考えちゃうよそんなん…。 何かの映画監督が言っていた、「本当に大事なところは直接見せない」というのを思い出しました。重要な台詞の時にあえて後ろ姿で語らせるとかそういうやつ。好きですね〜

それでいうと最初にそれぞれの曲目を出して登場人物紹介代わりにしてるのもオシャレすぎる。クラシック詳しい人ならこの曲目見ただけでオッとなるんでしょうか。いいなあ。詳しい人目線の感想も聞いてみたい。そうそうこの曲ってこうだよね〜とかあるのかな。


今更ながら、「音楽の美しさ」を文章で表現しているのもシンプルにすごい。とにかく表現が美しいし、こんなにいろんな風に表現できるんだって驚きます。

マサルがめちゃくちゃ作りこんだ十九世紀人間ドラマをピアノで語り出した時はすごすぎて笑ってしまった。マサル、作家の才能もあるんじゃないか。才能がマルチってレベルじゃないぞ。

予選のうちは誰が残るのか、次にどんな演奏が出てくるのかどきどきして、本選はひたすらに音楽の美しさと喜びに浸る。本選に入った時点でもう残りページが少ないのだけど、ああもう読み(聴き)終わってしまうんだなという名残惜しさが作中の聴衆とリンクする感覚がある。不思議な多幸感を感じながら読んでいました。


四人それぞれが「音楽とは何か」という命題の答えを見つけるのが好きです。

膨大な歳月が、情熱が奇跡的に組み合わさったものを今自分は目にしているのだ。
これだけ大勢の人たちが、生涯をかけるだけのものがあると信じて、この音を生み出しているのだ。

ふと、恐ろしくなった。
音楽家とは、なんという仕事なのだろう――なんという生業なのだろう。

明石にとってのこの畏怖。クラシック音楽、ひいては古典芸術の素晴らしさの本質と、それを追い求める人間の業の深さを表しているように思えて好きな一文です。私たち一般人の読者に近いからこそ出てくるものだなあとも思います。とんでもない天才たちと競いながらも、これだけはという地道で泥臭い努力がちゃんと菱沼賞として実を結ぶの、本当にうれしい。

マサルにとっては「人間という存在にほんの少し、地上の重力のくびきを逃れるための、何かを付加するとしたら」、それにふさわしい魔法のような生物のオプション機能。

人間の最良のかたちが音楽だ。(略)

どんなに汚くおぞましい部分が人間にあるとしても、そのすべてをひっくるめた人間というどろどろした沼から、いや、その混沌とした沼だからこそ、音楽という美しい蓮の花が咲く。

僕たちは、あの蓮の花を、いつまでも咲かせなければならない。それが、人間であることに耐えていくよすがであり、同時に報酬なのだ。

マサルは才能に恵まれていながらも、そんな自分を冷静に客観視して、人類と音楽の関係性という大きな視点で自分に何ができるのか、を考えているところがクレバーで好きです。だからこんなにパーフェクト完璧超人でも嫌味な感じがしないのかもなあ。

そして音楽に愛された天才たる亜夜と塵にとって、世界に当たり前に常に満ちているきれいなもの、自分の中に満ちているもの、自分を通じて世界に返すもの。「命の気配、命の予感」。

この二人の語る「音楽」はすべてが美しすぎて逆にここ!と引用するのに困る…笑 私も人間が敵わない「自然」の美しさが好きなので、かすかな蜜蜂の羽音や遠雷の響き、そういったものこそが音楽だという答えがとても好き。

これらの全てが音楽というものの本質を表しているように思います。大昔から今まで、世界のどこであっても、そこに無数に満ちていたもの。人々はそれに触れて、特別な感情を得て、それを形にし、それに生涯をかけた無数の人たちが長く長く受け継いで、何度も感情を震わせ、世界を震わせてきたもの。これからも永久にその営みが続いていく、彼らが続けていくもの。

いや〜〜〜果てしない。しかしそう捉えると、堅苦しい印象のクラシック音楽がとても特別できらきらしたものに感じられます。それだけでこの本を読めて本当に良かったな。

とりあえず今後作業用BGMに迷ったらクラシックをかけてみようかな~という気持ちになりました。作中の曲を実際にYouTubeで探して聴きながら読んでいたら、おすすめにいろいろ出てくるようになったし。(冒頭のトリルってこれかあ~とか没入できて良かったけど、読むスピードと曲の長さが違うので調整が大変でした笑)実際のピアノコンクールも一回行ってみたいな~。

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