【読書記録】イン・ザ・メガチャーチ|間違いの先にしか見えないもの

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30代前半で正社員を辞めた独身オタク。
資産形成や日々の暮らしなど、実際にやってみた経験・記録をもとに、素直な感想や考えたことを綴っています。

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こんにちは、きなです。

少し久しぶりになってしまった読書記録シリーズ、今回は本屋で見かけて気になっていた朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』です。

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「推し活」を巡る話らしいと聞いて気になっていましたが、オタクとしても内向型の人間としても他人事と思えずグサグサ刺さる部分が多数あり、気づいたら数日で一気読みしてしまいました。読み終わってからもいろいろと考えてしまったので、つらつら語っていこうと思います。長いよ!

※結末を含むネタバレががっつりあります!未読の方注意!※


まずは改めて、Amazonの紹介文をお借りしてあらすじの振り返りから。

沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」

この記事では三人の主人公を、ひそやかに孤独と後悔を抱える父親を久保田さん、その娘であり進路や人間関係に悩む女子大生を澄香ちゃん(HN:ちゃみする)、俳優オタクの30代派遣社員を隅川さんと呼び分けさせてもらいます。

見覚えがありすぎる解像度の高さ

読み始めてまず驚いたのが、めちゃくちゃ“今”の話だ…ということ。つい最近自分が感じたようなこと、さっきSNSで見たようなやりとり、それがそのまま出てきてとにかく解像度が高い。

澄香ちゃんの価値観、めちゃくちゃわかるな〜と思ってたらINFPでああ〜〜〜〜となる自認INFJ。現実で疲れてネットに逃げてまた疲れるの、わかるなあ〜〜。そしていろいろ考えて疲れているのに現実では指を動かすくらいしかしていない虚しさも、理想の自分であるために頑張るほど世の中のしんどさを理解してしまうことも、自分のやりたいことと気質的にできることの違いに悩むことも、下に見れる友達に安心してしまう嫌な自分も、全部驚くほど覚えがある。

隅川さんたち俳優オタク友達の会話もわかりみしかない。オタクが求めてるのは優秀な運営と良質な供給、潤沢な在庫、ランダムグッズの廃止と良席!そうだそうだ!! そして共感できるからこそ、熱愛や引退よりもさらに辛い、この世で一番あってほしくない「推しの喪失」報道に心が痛い…。

「サバ番出身のKPOP寄りアイドルグループ二代目」は詳しくない私でもぼんやり思い浮かぶ界隈があるし、売り上げランキング争いもまさに最近Xのおすすめ欄に流れてきた気がする。うーん、ノンフィクション……。

そしてオタクは「物語」に弱い。はい、その通りでございます。

前にXで、「応援している人が前進することで自分も前進したような気になれるからハマる」というような分析を見たけど、まさにそうだよな〜。実際はただの一消費者でいるだけなのに、演出された推しの物語に自分も乗せてもらっている感じになってしまう。「みなさんの応援のおかげで夢が叶いました!」なんて言われるとなおさら。もちろんそれもひとつの事実ではあるんだけど、その構造があると「ただの一消費者」である感覚が薄れそうなのは怖いなあと思う。

そして、みんな物語に中毒になりたがっている。

中毒症状があるほうが苦しくないのだ、人生は。

本の帯にも使われていた一節だけど、これがこの本の核だなあと思う。

中毒になりたいし、狂いたいし、脳を灼かれたいし、情緒めちゃくちゃになりたいんですよ。そしたら変わらない日常のつまらなさも、将来への漠然とした不安も、存在しないはずのコンプレックスを商品広告に煽られる焦りも、現実の苦しみ全て忘れていられるからね……。

推し活の救いと怖さ

ストーリーとコミュニティで信徒を増やすのはもともと宗教のやり方である、というのが途中でタイトル回収されるわけですが、やはり推し活と宗教は構造が似ているんだよなあ。アイドルは「偶像」で、推し活は偶像崇拝で、盲目的なファンは「信者」と昔から揶揄されてきたわけで。

昔から人は辛い現実の中で宗教によって救われようとして生き延びてきた、と考えると、宗教の教えがアイドルの優しい歌詞、勇気づける歌詞に変わっただけならさもありなん、という感じ。

オタクは推し活を通じて日常の悩みから救われて仲間もできるし、運営はお金が入って事業を続けられるし、一見win-winなのに不穏に感じてしまう。それはオタクが没入して盲目的にお金を使って日常が破滅しても、この運営(というか国見さん)は構わなそうなところなんでしょうな。健全か・持続可能かという視点はなさそう。オタクの熱意は移り変わるもので、ファンダムは入れ替わるものだから商業的には正しいのかもしれないけど、やはりモヤモヤしてしまう~。

私は単純に破棄前提での買い物は抵抗があるので、CDを積んだりはしないタイプだけど、何かの拍子でその価値観もひっくり返るほど狂わされるかもしれない、と思うとやはり怖い。

何かに夢中になるのはいいことだけど、やはりほどほどに迷惑をかけない範囲で楽しむのが大事、と改めて肝に銘じました。じゃあ「ほどほどに」「迷惑をかけない」のラインがどこなのかという話だけど、「嘘をつかないこと」なのかもなあとも。人に嘘をついてお金をやりくりしようとしない、自分の不安を見て見ぬふりしない。
胸張って自己責任で間違える分にはいいんじゃないですかね。

より現実的に言うと、私の場合ブログで毎月何してたか振り返ったり、支出先を晒すことで少しでも自分を客観的に見れたらいいな。そのためにもブログは続けていくべきかも…澄香ちゃんや隅川さんもブログやったらいいと思うよ。(どういう着地?)

視野と幸福について

視野を広げるのが正しいのか。狭めるのが幸せなのか。狭い視野で幸せを享受するのは間違いなのか。

はたして広げたと思ったその視野は、本当に広がっているのか。また別の物差しに囚われただけなんじゃないか。

この本を読んでいると、ずっとこのことを考えさせられます。視野ってなんだぁ〜〜〜???(ゲシュタルト崩壊)

まず「視野を広げて本質的なことに気づく」ことこそが大事な気にさせられます。芸能ニュースよりももっと論じられるべき世界の問題を、隠された世界の真実を。…という流れで人が陰謀論に呑まれるところ、辛すぎて読むのくじけそうだった。 まあ…いろんな不安や不満を架空の絶対悪のせいにできたら納得できるし楽になるしそうしたいよね……ひとってよわいね………。

インターネットを見すぎていると、自分の持ち物や行いが全て間違っているような気がして、自分が持っていないものや他人がやっていることが全て正しくて”本質的”なような気がしてくるんですよね、厄介なもので。

“本質的”ってなんでしょうね。自分が見ているものが真実で正しいと思い込んで、それ以外の人を見下すための魔法の言葉かな。これはすぐこう長々と考えては「本質に近づいた」ような気になってしまうことへの自戒も込めてね…

ただ次第に、「視野を広げて間違えない」ことがはたして正解なのか?とも問うてくる。視野を広げれば、視点を変えれば、あらゆる正解も間違いも無限にひっくり返せる。決まった正解も幸せもありません、各々で探し掴んでいきましょう、という耳障りの良い答え。つまりは、わざとどこかに視野を狭めないと何かを正解と決めることはできず、永遠に行動は起こせない。それでは人生は進まない。

思えば私たちは何かを全力で頑張って命燃やしてる人や物語に惹かれるわけで、そういう熱量やクソデカ感情に脳灼かれるわけで。それを思うと「視野狭窄になって自分を使い切る」というのも悪いことではなく、むしろ本能としてはそうしたがっているのかもしれないな。

最後に国見が久保田さんに問うた通り、視野を広げて間違えないことでは、結局何も生まれない。何も間違えない賢い人生って、全力の人を冷笑するだけの何も愛さない寂しい人生なのかもしれない。国見さん、あなたは何が好きだったんですか。あなたも「人をハマらせる」ことに固執して、視野狭まってたんじゃないですか。

情報過多のこの時代、あらゆる思想も価値観も良い面と悪い面両方あって、絶対的に信じられるものなんてなくて。それでも生きていかないといけない世の中は、不条理で殺伐として歪んでいて問題だらけで。

その中でも健康なメンタルで生きていくためには、何かしらで現実から目を逸らせるように自分を騙す必要があって。それが人によって、推し活はじめ趣味だったり、仕事だったり、家庭だったり、陰謀論だったりする……のかな……。

自分だけの正解・幸せを探せって難しすぎる〜。ひとまず考え続ける気持ちを持ちつつ、適度に何かに没入して脳を満たすのを反復横跳びしながら、自分が死ぬまで世界が滅びないのを祈りつつ、どうにかこうにかね。

間違えて破滅して、その後に残るもの

読み進めながら、これハッピーエンドあります?大丈夫?残りのページ数これだけだよ?とハラハラしていましたが、読み終わった最初の感情は

ほらもお〜〜〜〜〜〜〜破滅しかなかったじゃないですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(大の字)

のきもちでした。

久保田さんは友情を勘違いして行動を間違え、仕事の大事なポジション解任。澄香ちゃんは推し活にのめり込んで、留学のためのお金や将来を考える貴重な時間を失う。隅川さんは陰謀論にのめり込んで資産も所有物も組織に全入れ。す、救いがない~~~。奇しくも「一度全部壊してゼロから立て直す」という、グレートリセットを提唱していた渋谷の若者の言うとおりになってしまった…。

物語開始時点から考えると、3人とも状況が悪化しているまであるので、それぞれの「間違い」の話だったんだよなあと思う。でもきっと大事なのが、全てを失ったわけではなく、一筋の希望があるところ。

みんなここから立て直していくしかない。久保田さんと澄香ちゃんは改めて話し合い、将来について考えないといけない。隅川さんといづみさんは、改めて推しのいない世界と向き合わないといけない。

でも久保田さんは人に弱さを晒しても良いということ、今真に向き合うべきは娘の澄香ちゃんであると気づけた。澄香ちゃんは推し活を通じて、自分と同じ悩みの人がいることを知り、推し活仲間との社交面の成功体験を得た。隅川さんはすべて失ったけど、まだいづみさんという同じ境遇の仲間がいる。

いづみさんの最後の叫びが「全部嘘ならそう言ってよ!」で、あの一報を見た直後の反射的な「嘘!」から感情が進めていないんだなあと感じました。「悲嘆の5段階」で言う最初の否認、あるいはその次の怒りのところにまだいるんだなあ。防衛本能として仕方ないんだけど、「そうだよ、きっと嘘なんだよ」と囁く陰謀論とぶつかってしまったのが不運というか…。ここから少しずつ正しいグリーフケアを通して、先の取引・抑うつ・受容へ進んでいかないといけない。遠いなあ〜〜…。

ただ幸い隅川さんは自分の中の違和感を認める覚悟が決まったようなので、彼女たちの立て直しがうまくいくことを願うばかりです。でないと推しも浮かばれないでしょう…あと怪しい霊能者と組織は逮捕されてねマジで。

失敗の中からも得られるものはある…というより、視野を狭くして、自分を騙して、愚かに動いて、間違えた先にしか得られないものがある…って教訓なのかなあ~。

ガチャに十数万円溶かして完凸する配信者にも、供給に脳灼かれて3日で同人誌描いて極道入稿するオタクにも、特効ガチャ回して一週間寝食を削ってソシャゲのランキングを走るオタクにも、怖さと同時にある種の眩しさを感じることがあります。これだけすべてを捧げても良いくらい好きなものがあるんだな、といううらやましさ。

普通に考えたら愚かなお金や時間の使い方でも、その行為の先にしか見えない景色があるんだろうなあ。

その他:登場人物それぞれ気になったところ

久保田さんと澄香ちゃんは親子でありつつアイドルの運営とファンというそれぞれの立場で、隅川さんは直接つながりはないけど、偶然にも澄香ちゃんと同じ「ブルームマイセルフ」という合言葉を唱える信徒であるという構図が面白いな~と思いました。名前似てる上に合言葉も被ったか~と思っていたら、”すみちゃん”の2ページで完全にシンクロする仕掛けで声出た。

そしてその2人の”すみちゃん”がお互いをあれは私だ、と思うのが上手いループ構造というか。オタクって「何かにハマる→コミュニティに所属する→どこかで無理し始める→病む→何かにハマって救われる」のループにずっといますよねと言われたらそうですね……としか言えない…。

澄香ちゃんのパソコン室のシーン、数十人のスマホ盗むのかと思ってヒヤヒヤした。彼女がそれを「民度低い」と指摘されたり推しの休養を受けてもそんなに病んでなさそうだったのが意外でしたが、語られてない間にきっとファンダム内でいろんな物語があったんだろうなあ…見たいような怖いような…。正直推しが辞めて、メンタルどん底のところに陰謀論とぶつかってしまうのが最悪のルートな気がしたのでそれは避けられたようで何より。

あと久保田さんの宿舎凸が完全に失敗ルートなのもちょっと予想外でした。つい行ってあげて…!って思っちゃったもんな…。でもオートロック追従突破は普通にライン越えだしな…。

澄香ちゃんの推しの道哉くん、読んでいてもこの子アイドル続けられるか…?と少し心配になる子だったけど、こんな風に久保田さんや澄香ちゃんに良くも悪くも影響を与えたところを見ると、人の心を動かす才能は確かにあるのかもしれないので今後が気になります。ともあれ望んでいた”仲間”は大切なメンバーを得られたようなので良かった…のかな?他メンバーの描写はあまりなかったので何とも言えませんが。

おわりに

こういう本読んだ感想こねくり回していくうちにすぐ人は〜人生は〜みたいな無限ろくろ回しになるところが「自他境界が曖昧で、何事も自分ごとに引き寄せ勝手な物語を展開させがちな、視野が狭くなりがちで内向的な人間」なんですよね~!自己紹介乙!

一の情報から十も百も物語を広げてしまうオタクの生態、心当たりがありすぎる。そうでなきゃ同人オタクやってるわけないだろ!

ともあれ正解も間違いも捉え方次第でひっくり返るんだから、どんどん間違えていこうという勇気をもらいました。嘘をつかず、人に迷惑かけない範囲でね。

イン・ザ・メガチャーチ、オタクとしても内向型人間としても刺さった作品でした。

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